島々は深いところでつながっている

 



 東京からブリュッセルに帰ってきてすぐ、ドキュメンタリー映画の監督のカレンからメッセージをもらいました。

新しい映画の上映会があるとのこと。

場所もちょっと変わっていて、ユダヤ人コミュニティUPJBが運営している文化センターのようなところでした。小さなサロンは観客で一杯。

 

作品のタイトルは「島々」。

イタリア人のマリオ・ベレンタの共作となっています。

上映前の挨拶で、題名の「島々は深いところでつながっている」

Les îles réunies en profondeur

というテキストを、ウイリアム・ジェームスの著書から引用したと説明していました。

 


 

映画はコロナ禍が始まってからの2年間に70人もの世界中の人々を映像としてスケッチしてパッチワークしたもの。

何の説明もなく、イタリア、エクアドル、アメリカ、ベルギー、アイルランドなどなど、様々な場所で撮られた映像やインタビューを羅列した作品です。

ロックダウン中でも、ブラック・ライブスマターの運動があり、デモや市民のドアを蹴破る警察官がいて、家に一人こもる画家や、船とともに海の藻屑となる移民たち、溺れ死んだ肉親の写真を掲げる家族たち。難民キャンプに住む人々。

世界では同時にいろんなことが起こっています。

別々のところで様々な人が過ごしたコロナ禍の2年間。映像は淡々と、時にはエモーショナルに現実を映し出していました。

そして、人々は、島々のように、実は深いところでつながっています。グローバルな世界は、より早くお互いに影響を受けるようになりました。バタフライ効果は、まさに間髪置かずにどこか他のところに派生していきます。

私たちは、コロナという世界中を巻き込んだ感染症によって、いろいろな情報を共有しました。多分感情的なことも。

映画が終わったあと、観客の一人が手をあげて、「ヒューマニズム!」と叫びました。大変な時でも、 一人一人が大切なのだと、映画は語っていたのかもしれません。そして、決して孤独ではないということも。

 

予告はこちら。https://www.youtube.com/watch?v=pC79SjjCPyU

 

ベルギーでは、健康パスがなくなり、友達とカフェで待ち合わせることができるようになりました。

マスク着用も、公共交通機関の中だけが義務になっています。

マスクを持ち歩くのが癖になってしまった自分が悲しいですね。

ヨーロッパ全体が規制緩和に向かっていますが、夏に向かって感染者数が減るというのを見込んでいるわけで、これで終わりではないと疑心暗鬼になっている自分も悲しい。

今は、世間がウクライナとロシアの戦争に夢中になっていますから、コロナの話など、吹っ飛んでしまった感はありますが、全ての問題は常にそこにあると考えていた方がいいのかもしれません。

 

 

ところで、カレンと初めて合ったのは、ベルギー在住の日本人映画監督の方から紹介でした。

日本で映画を撮るにあたって手伝ってあげてほしいと。

会って説明を聞いてみると、福井の東尋坊のドキュメンタリー映画を撮りたいということでした。

東尋坊は日本海に面した険しい岩壁が続く場所で、自殺の名所でもあります。

元警察官の茂幸雄さんが、不審な動きをしている人に話しかけ、自殺を思いとどまらせる活動をしています。カレンは、茂さんを撮影したいので、私に日本語メールでコンタクトしてほしいと言うことでした。

ちょうどその頃、今住んでいるアパートの大家さんの紹介で、下の階に京都から来たSさんが滞在していました。

何をしている人なのかよくわからず、謎が多い人なので、私と相方のブルノーの間では、「スパイのSさん」と呼んでいました。

彼を夕食に招待した時、ふと、東尋坊のシゲさんの話題になりました。

すると、Sさんは、「ああ、シゲさんのことならよく知ってますよ。年末の忘年会にはよく出席するんですよ。」と。

なんと、なんと、タイミングのいいことってあるのですね。Sさんをカレンに紹介しました。

こういうコネクションを作れるのは、映画監督としてかなりの運の強さなのでは、と私は感心をしていましたが、残念ながら資金集めがままならず、映画撮影までたどり着けていません。

でも縁がなかっととも思えません。いつかクランクインすることを願ってます。

ただ、その時のシンクロニシティはかなり面白かった。

心に残った出来事でした。 

 

カレンの映画のタイトルとして引用されたウイリアム・ジェームスですが、アメリカの 心理学者で、認知心理学やトランスパーソナル心理学にも影響を与えた人のようです。

1800年代の終わり、ウイリアム・ジェームスを含む研究者たちが、人間の精神を実証研究の対象として認めさせようと、霊媒師を抱き込んでいたという話もあります。当時の科学者の中でも、近代スピリチュアルに傾倒していた人たちが少なからずいたようで、キューリー夫人も時々交霊会に参加していたそうです。

不思議な時代。科学が宗教に取って代わる前の、はざまの時代だったような。

興味深いです。

フロイトやユングも同じ時代にいた人たち。

「島々は深いところでつながっている」という言葉も、ユングの「集団的無意識」を思い起こさせます。

 

また、その辺の話は、別の機会に。


 

コメント