8月と2月

 14年も前のことですが、 日本行きのチケットを買うと、国内での往復チケットが無料で付いてくるという飛行機会社のプロモーションがありました。

私は迷わず、沖縄往復のチケットを予約。

当時、一ヶ月の日本滞在で、丸々3週間沖縄にいたのです。

あの頃はミクシーに日記を書いていましたが、もう解約してしまったので見ることはできません。ちゃんと保存しておけばよかった。

もっと色々思い出せたのに。

 

 

なぜ、今沖縄の話なのかと言うと、うちの壁にメモなどをはるボードがあるのですが、そこにずっと貼り付けられたままの一編の詩を、そろそろどうにかする時かなぁと思ったからなのでした。

私の頼りない記憶によると、この詩は、那覇の小学校の廊下に張り出されていたものなのです。

首里城を訪れて半日かけて見学し、その帰り道に立ち寄った小学校だったように覚えています。校庭に大きな木があって、 がっしりとした枝を横に伸ばしていました。

その時は夏休みで、子供の姿はほとんどありませんでした。

誰もいない校庭の木の上によじ登りぼんやり涼みながら、校庭の向こう側にある校舎を眺めていました。

校舎も解放されていて、簡単に入ることができるようでした。

中に入り、ひんやりとした廊下を裸足で歩いていると、壁に貼られた一編の詩が目に入ってきました。とても気になって、それをノートにメモしたのです。

そして、いっぱいになったノートを捨てる時、どうしても気なってタイプし、ずっとコンピューターの中に置いたままになっていました。

その後、コンピューターのバージョンアップをする際、いらないファイル片付けました。またまたどうしてもこの詩が気になってプリントアウトしたのです。

そして、引っ越すたびに持ち歩き、最近は、無意識に目に入ってくるところ、下駄箱の上あたりに貼ってありました。

別に読み直すわけでもなく、いつもここにあるなぁと言う感じで視界に入ってくるのです。

 

それは、「8月と2月」という題名がついた詩です。

 

 

 

 

8月と2月

 

少年は子犬を籠に入れた

少年は子犬を籠に入れておもしをつけた

少年は泣いていた

蝉の声がやかましかった

おんなの部屋は寒かった

わたしたちは毛布を何枚もかぶっていた

おんなのからだは乾草の匂いがした

夕暮れでみぞれがふっていた

 

少年は河岸で籠をのぞいた

子犬は小さなしっぽをふっていた

太陽は焼けつくようだった

薄暗い部屋の中で

私たちは汗まみれになり

やがてじっとして眠り込んだ


少年は目をつぶって籠を河に投げ込んだ

それから泣きながら走っていった

 

わたしたちが目をさました時

もう外は真っ暗だった

 

少年は夜になっても泣き止まなかった 

 

 


とても悲しい、でも、夢の中で起こったことのような、不思議な情景です。今でも誰の詩なのかわかりません。

どなたか知っていたら教えて欲しいです。

 

なぜこの詩に惹かれたのか。

それは、悲しくて泣きながら眠った思い出をなぞっていると感じたからでしょうか。

それとも、二度と戻ることのない失ったものを、夢で再現している感覚に共感したのでしょうか。

私は、時々、実際に持ったこともない、体験したこともないものを先に失ってしまうことがあるのでは、と思うことがあります。

この詩のように、子犬を水に沈めたことはないけれど、この悲しみには馴染みがあって、後悔や自責の念やらがまぜこぜになった涙。私は少年と一緒に失っていくのです。私が持つかもしれなかった子犬を。

そして、それをみぞれが屋根を叩く中、夢に見る私がいます。

寒い部屋で蝉の声を聞きながら。


 

ここに書き出して、私の個人的な部屋からこの詩を追い出したことで、やっとタイプされた詩を捨てることができます。

この先、この詩は静かに消えていくのか、誰かの心に残るのか。

詩もウイルスに似ていますね。伝染します。

 

 

思い出してみると、沖縄での3週間は、なかなか濃厚でした。

ヤギ鍋を食べたり、泡盛を飲んだりはもちろんのこと、那覇ではライブハウスに入り浸り、生の沖縄音楽に浸りたくてミュージシャンと飲み歩いたりしました。

そういえば、首里城でも蝉の声がやかましかった。

お城の出口にいる警備員のおじいさんが、蝉が地面に出てくるのは満月の夜なんだと教えてくれました。人間のお産が多いのも満月の夜。地球と月が引き合って、子供達が生まれてくるのです。



最後に、帰る日の朝、那覇の空港で中国の飛行機が火災を起こし大騒ぎになっていました。

お世話になったミュージシャンから電話が来て、帰れなかったら戻っておいでよ、と言ってくれました。

私が空港に着いた頃は、焦げた飛行機から煙が立ち上っているぐらいで、火災はなんとか消し止められていました。

結局、私は東京行きの飛行機に乗ることができました。

あの時飛行機が飛んでなかったら帰らなかったかもしれないなあ、と思ったりもします。

私は、今まで、いつも、ここでない別のどこかを探していました。

でも、「8月と2月」の詩を持ってベルギーに戻ってきました。

沖縄には、また行きたいと思いつつ、あれからまだ一度も訪れていません。

 

 


 

 

「沖縄」は、私にとって特別なところです。

きっと誰にとっても特別なところですね。神様がいるところ。

また違う詩を持って帰りたいな。いつか。

 

 


 

 


 

コメント

  1. その、ミクシーの沖縄日記を読んで、面白い人だな、私にはできない経験をしてるなと感心したのを思い出しました。この詩のことは覚えてませんが、、、沖縄、いつか行きたいです。

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    1. この詩については、今回初めて書きました。ミクシーに書いたので覚えているのは、ウグイスと会話したこととかかなあ。ちょっとあの頃の自分を思い出して、精神世界に遊びたいなあ、と思ったり。

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