ふたつの家族の崩壊劇

うちの隣には、子供が3人いるお母さんが住んでいて、道端ですれ違う時は、いつもにこやかでやさしそうだった。
彼女のうちには、夫婦の猫とその子供たちがいた。
去年、隣の子猫が、うちの庭の水たまりのような池に落ちたので、助けて返しに行った。その時初めて隣のアパートに入った。
家には小型犬も一匹にいた。
わたしは、彼女が犬を散歩しているところを一度も見た事がないし、庭に犬がいることもなかったので不思議に思った。 この犬は、いつも家のなかにいるのかな。
「たくさん動物がいると、えさ代もかかるけど、動物は人間より親切だ。」と彼女は言った。

3人の子供たちは、去年の夏休みに、近所の子と一緒によく道で遊んでいた。
2、3回、うちにも遊びに来た。
一番上の男の子は、柔道を習っていて、漢字で月火水木金土日と書かれたサイコロをくれた。乱暴で活発な近所の男の子がうちの中をちょろちょろして、何でかんでも触るのを見て注意していた。おとなしくて気を使う子だなと思った。
 気になっていたのは、時々隣から聞こえる大声で、お母さんが叫んでるに違いなかった。
大抵は、別れた夫に電話で悪態をついているのだが、その叫ぶ声が尋常でなく憎しみがこもっていて、一度はじまったら30分は続く。怒りというのは瞬発的なもので、エネルギーがいつまでも続く物ではないと思っていたけれど、彼女は、悪魔に憑かれたように叫び続けている。
子供たちは大丈夫かな、と思ったが、暴力をふるっている様子もないので、黙止していた。

猫たちといえば、好きなときに好きなところに行き、時々うちの庭をトイレ代わりに使い、天気のいい日は、昼寝などしていた。
お父さん猫は、毛が長くてたくましく、近所でも一目おかれた猫のように見受けられる。
彼は、一度だけ、庭でご飯を食べている時に現れ、私たちの夕食の晩酌に預かって行った。

今年にはいってからは、何も起こらず、ずっと静かだった。
夏休になっても、だれも道で遊んでいなかった。
みんな、ちょっと大人になったのかな、と思っていた。
隣の庭の雑草は生え放題で、バーベキューする人もいない。
猫だけは、庭を拠点にあちこち出かけているのが、わたしの窓からも見えた。
最後の日には、お父さん猫が、本の整理をしている私の様子を、庭からずっと伺っているのに気がついていた。時々台所まで入って来た。
でも、ご飯時でもなかったので、「またね」と言って窓を閉めた。
その時、わたしは、まだ気がついてなかった。
隣には、誰もいないこと。

 何日か前から、犬が遠吠えをするように、ずっと啼いていた。
それには気がついていたのだけれど、まさか、隣のお母さんが、犬を家の中に置き去りにして遠出 してしまうなんて考えもしなかった。

そして、ポリスが来た。

犬が救出された。犬は精一杯しっぽをふっていた。

隣のお母さんは、マルセイユに行ったまま、もう戻ってこないだろう、とポリスが言った。

猫たちは、塀の上からうさんくさそうに一部始終を見ていた。
向こう側に住む隣人がキャットフードを持って来たので、ポリスは、餌をおとりに猫を庭に集めた。猫たちは一心不乱に食べていた。
きっと、何日もご飯を食べていなかったんだね。
昨日、お父さん猫に何もあげなかったのが悔やまれる。
庭には、子猫が2匹いて、ポリスは、「あなた猫ほしくない?」と聞いて来た。
いや、ほしくはないんだけど、、、でも結局、一匹引き取った。

それが、今うちにいるピプン。
 
いったい、なにがどうなったのか、近所の人に聞くと、3人の子供たちは、大分前にお父さんとおばあちゃんに引き取られたそうだ。
だから、マルセイユには、お母さん一人で行った。
彼女は新しい恋人のところに行ったのだろうか。
「人間より親切」と行っていた動物を全部捨てて。
住んでいたアパートもすべてそのままで。

猫たちも連れて行かれてしまった。獣医が言うには、ピプンは生まれて一ヶ月半ぐらいだと言う。体重は30グラムしかない。
向こう側に住む隣人が、騒動の最後まで見ていて、3匹いた猫はポリスにつれて行かれたけど、一匹だけ、どこかに逃げたようだと言っていた。
お父さんも、お母さんも、兄弟も一緒にいたのに、みんなばらばらになった。
 二つの家族の崩壊。
発情期のころはいつもうるさかったけど、もう、猫の鳴き声も聞こえない。
わたしが、 向こう側に住む隣人に「家族がバラバラになるのは悲しい」と言ったら、彼女は「猫はもともと孤独に生きる動物でしょう。」と答えた。

ほんとにそうなのかな。

なんだか色々悔やまれる。
なんだか色々し悲しいよ。

ピプンは、そんなわたしの気持ちには関係なく、よく食べよく遊び、日に日に元気になってる。
お父さん猫そっくりな、一目おかれる猫になるだろうか。
ちなみに、性別はまだわからず。


























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