Geel

先月の話しですが、ベルギーのGeelに行ってきました。
アントワープから東の方に電車で30分ぐらいのところにあるフランドルの古い街です。
ここは、中世のころから、街が狂人の家族を受け入れて来たということで、今でも精神的な病気を持つ人たちが多く住んでいます。
病院に入院するのではなく、ホストファミリーが受け入れたりして、患者を隔離しないで治療を行うモデルになっているそうです。
わたしも以前ガイドの仕事で、日本から視察に来た精神科のお医者さんたちと話しをする機会があり、このGeelがどのように機能しているのか見に来たと言っていました。
その時から関心があったのですが、今回街全体で展覧会をやっているというので見に行ったのです。

街の中心にある美術館での企画展は、魔術的なことにまつわる色々な作品を集めていました。

 










ピカソやキキ=スミス、ルドン、クレー、ルイス=ブルジョワなどの作品もあり、見応えのある展覧会になっていました。
ほかにも、教会のなかでのインスタレーションや、中世からある精神病院を併設していた修道院のなかの展示もあり、一日ではとても見きれない量でした。



 ヨーロッパでは中世のころは、La fête de fou(狂人祭り)やLe Roi de fou(狂人の王)という言葉があり、
お祭りのときは、普段禁止されてることが無礼講になるということもあり、中世において、狂人は自由のシンボルだったそうです。
中世の終わり頃、14世紀ごろになると、フランスとイギリスの百年戦争も勃発し、魔女狩りなどもはじまりました。
ヒステリーなどの病気の女の人たちは、魔女として裸にされ拷問されたらしいです。拷問がつらくて魔女だと認めると、結局火あぶりになるので救いがなかったんですよね。ひどい話しです。
中世のおおらかさが失われた訳ははっきりは解りませんが、戦争が起こることで、個人的な人間性や、コミュニテーのモラルが劣化するのでしょうか。
人間は、ほんとうに世の中の雰囲気に影響されやすい生き物ですよね。

狂人とはなにか、という話しは、よく学校の授業に出てくるのですが、昔はどこの文化でも、狂人は悪魔が付いていると思われたので、けっこう荒っぽいショック療法も行われていたようです。ごく最近まで、電気ショック療法は行われていました。
アントナン=アルトーは、このショック療法にうんざりしていたという話しですし、ムンクも受けたことがあるようです。

Geelの展覧会のテーマとしても、狂人は、一般的な社会の枠からはずれた人たちであり、魔術や神話に関わって来る存在なのだという意味だったように思います。
 おもしろいのは、あらゆる時代に、芸術が悪魔的な物を形にして表に出す役割をするということです。

Geelの守り神は聖ディンフナです。癒しの力を持っていたそうです。修道院には、足の下
 に悪魔をふんずけた聖人の彫刻があちこちにありました。


アイルランド出身の聖ディンプナは母の死後、父に言い寄られ逃れるために司祭とベルギーのアントワープ、それからヘール(ゲール)へと逃避行を続けましたが最終的には父に見つかり殺されてしまいました。
13世紀にヘールで男性の遺体と共にディンプナという名が記された遺体が発見され、遺骨が移送される際に精神病やてんかん患者が完治した事が記録されています。現在彼女の遺体が発見された場所には精神病院が建っています。
 

コメント