悪魔を呼び込む


さて、新店子のラハマの部屋からは、初日から大声が聞こえていました。

喧嘩しているような叫び声だったので様子を見に行くと、ただ幼馴染の女の子が来て騒いでいるだけでした。アフリカ系の人たちなので、勝手がいまいちわかりません。ただ声が大きいだけなのか。

唯一朝日が入る大きな窓のシャッターを完全に下ろして、真っ暗な中暮らしています。アフリカ系の人は日差しの強いところに住んでいた時の習慣を変えられないのだ、と言う話はよく聞きます。

ラハマのボーイフレンドのモモは暗い目をして、顔に刀傷のようなものがあり、ほとんど喋りませんが、話すと低い声の聞こえづらい話し方をする人。かなり訳ありのヤクザっぽい人です。

ラハマは、カフェで働いているということで、日中は家にいませんが、モモは一日中家にいるようです。つまり、完全にヒモですね。

その頃私は離れで寝ていたので、彼らの窓はよく見えます。一晩中電気がついているので、いつ寝ているのだろうと思っていましたが、以前住んでいたグザビエも似たような時間帯で生活していたので、あまり気にしていませんでした。

最初のトラブルは、入居してすぐの月でした。8月のバカンス時期だったため、カフェの会計士がいなくてお給料が払われない、とラハマが言い出しました。もう、8月も半ばだったので、できるだけ早く家賃を払わなければなりません。ラハマは、大家と直接交渉すると言って電話をかけ、大喧嘩をしました。

ラハマは、来週の月曜日には払うと言うと、大家は今すぐ払えと言って聞かないそうです。週末だったので、月曜日は2日後です。大家は私にも、今すぐ家賃を払えとメッセージを送ってきてます。

私は、ラハマにお金が入ったらすぐまとめて振り込めるように、ラハマの口座にすでに送金していました。それ以上のことは私にはできません。

メッセージで、月曜日に払うと返事をしたところ、家賃滞納で3ヶ月分の違約金を払えと書いてきました。大家のメッセは無視しました。その時は月曜日には入金できたらしく、その後、大家からは何も言ってきませんでした。お金に困っているのか?と思いましたが、そういうことでもなかったらしい。

以前からブルジョア建築家である大家の対応は不親切で傲慢です。アパートの登記もしていないし、離れを登録せず税金逃れをしているようなのです。一度査察の人が入ったことがあります。私とブルノーは、すでに何回も店子のサポート機関・Aide locataireに相談していました。

 

それから程なくして、ラハマの部屋のボイラーが止まり、お湯が出なくなりました。

私が、今まで何回か修理にきてくれていたテクニシャンに見てもらうと、もう設置20年も経っているから、変えたほうがいいと言っていました。

それを書面にしてもらって、大家に送りました。放置しておくと危険だと書き添えて。大家は新しいボイラーを買いたくないので、「まだまだ動くし、危険ではない。」と、自分の知っている修理工を送り込んできました。

結局ボイラーはなんとか動くようになり、ひと段落したように見えました。その時までは、ひどい大家にどう対処するか、という事ばかり考えていましたが、実は、新しい店子はそれを上回る悪魔だったのです。

 

 その頃、今まで払っていた水道代、電気代などの引き継ぎがうまくできていませんでした。今までブルノーがまとめて払っていたので、私名義に移すため、用紙に記入して、サインもしました。ベルギーのシステムでは、直接配給元と契約を結べません。間に別の会社が入って、支払いなどの業務をするのです。

全ての情報は出しているので、私に新契約のメールが来ると思って待っていましたが、1ヶ月立っても2ヶ月たっても何も来なくておかしいと思っていたところ、大家からメールが来ました。

アパートに誰も住んでいないようなので、水道、電気、ガスを止めるという知らせが配給元から大家に送られてきたのです。

メールを私とラハマに転送してきたので、私は、「すぐに対処すると」返事しました。ところがラハマが、「私には電気、ガスを使う権利がある。もう家賃を払わない。」という謎なメールを大家に送っていたのでした。大家はもちろん大激怒です。

その上、シェアしているインターネット代も、何回言っても払ってくれません。どうやら払うつもりがないのだということがわかってきたので、払わないならパスワードを変えるとメッセすると、「私を脅すのか??」と言う攻撃的な返事です。脅すも何も、払わないなら当然のことなんですけど。

私は、すぐにモデムのパスワード変えました。

ラハマもモモも、定期的に電話番号を変えている節がありました。何回かかけた後、解約されて繋がらなくなるのです。怪しいことこの上ない。

それからしばらくして、2階と4階に住んでいる住人たちが連名で、私たちを訴える、と言う書状が届きました。

私は離れで寝ていたので全く知りませんでしたが、夜中に大声で話し、叫び、上の住人は眠れないと言うことです。特に、真上に住んでる人たちの子供たちはまだ小さいのです。

廊下でハッシシを吸っていること。勝手に、インターネットの工事をしていることなどが、書かれていました。なぜ私が一緒に訴えられたかというと、アパートの契約書が私とラハマの二人の名前になっているので、連帯責任を取らされる羽目になったようです。

それに、このままでは、光熱費も全く支払われないと言うことも確実です。なぜか、このアパートは水道代が異常に高く、古い建物のどこかで水漏れをしているのではないかと思われるほどです。

2階の庭側の部屋の電気を付けると、全部のブローカーが落ちてしまうという状態で、壁の中で水漏れが起きている可能性があります。その部屋の壁は湿気のため壁も変色しています。それも何度も大家に言いましたが、10年前から放置されたままでした。

私は、できるだけ早くアパートを出る決心をしました。

本当は、店子は出る3ヶ月前に告知しなければならず、それをしなければ、3ヶ月分の家賃を払わなければならないのです。ブルノーがいる時に、私は彼に何度もアパートを出ることを大家に事前に知らせるべきだと言ったのですが、自分の住む場所が見つかるまではダメだと言い張って大喧嘩です。そして結局私に全部押し付けて出て行ったのです。ここでもやられてしまいました。

今まで、相談していたAide locataireの女性は、大家がアパートを登記していない場合、告知せずに出ても大家は請求できないと言っていました。

また、ソビエスキーのアパートのように、入り口が全く別の独立したアパートを一緒にして貸してはいけないという法律もあります。今まで、下と上を別々にして貸して欲しいと、何回も大家には相談していますが、全く取り合ってもらえずここまできています。Aide locataireは一度、注意喚起の手紙を出したそうですが、もちろん無視されています。

上に住んでいる人たちの訴訟には、もちろん大家も噛んでいます。

大家が雇った弁護士が、訴訟に関するメールを送って来るようになりました。

家を出るために色々な資料を集めている頃、大家から電話がありました。

私が呼び込んだ店子なので、私が責任を取れと言うのです。

私も被害者なので、できるだけアパートを早く出たいと言ったところ、出るなら違約金を3ヶ月払えと脅してきます。話にならないので、「そちらで警察でもよんだらどうですか?」と言って電話を切りました。

ラハマの部屋にある冷蔵庫や家具は全部私のものでした。

洋服掛けだけ持っていきたかったので、彼女が留守の間に取り返してきました。何も掛かっていなかったし。すると、勝手に部屋に入ったと大騒ぎです。警察を呼ぶとメッセしてきました。

私を訪ねてきた友達は、廊下でモモに脅され、私は知らない男の子がアパートの鍵を持って勝手に出入りしているのを目撃しました。

ラハマは家賃をずっと払わず、平気な顔で生活しています。

このようなモラル崩壊した人たちと関わったことがなかったので、うっかり信用した入れてしまったことを後悔しました。私もまだまだ甘ちゃんです。

 今考えてみるに、何か都合が悪いことがあると、訴えるとか、脅されてるとか、警察を呼ぶとか、権利がどうの、とすぐ言い出すのに違和感があったのですが、自分が今まで人に言われていることを、オウム返ししているだけなのかもしれません。ブリュッセルには、若いうちから犯罪に手を染める人たちがたくさんいるのは知っていましたが、現実に関わったのは初めての経験です。

まるで映画の中の話のよう。大変なのですが、あまり現実感がありません。

私は、もともと11月には1ヶ月日本に帰る予定だったので、10月中に、荷物を近所に借りているアトリエに全部運びました。

引っ越し作業中、上に住んでる人が通りかかって、「引っ越すのか」と、手伝いに来た友達に探りを入れてきました。私を訴えた人たちですから、大家に告げ口されたくなかったので、ランチの時に何も言わないようみんなに口止めしておきました。

でも結局、引っ越しの最後に、手伝いに来ていたブルノーがベラベラしゃべったようです。ランチの時の話を聞いていたはずなのに。ここでもまたやられてしまいました。手伝ってもらわない方がよかった。

私の人生、ここに来て、頭のおかしいエゴイストな人たちに取り囲まれているような気がしてきました。

 

最後に、手紙と光熱費の請求書など、2通づつ用意して、大家とラハマに書留で送りました。

そして、とうとうソビエスキーハウスを捨てて日本に旅立ったのでした。

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 


 

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